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好きなものに囲まれた「遊佐セカンドライフ」

暮らし・ライフスタイル

好きなものに囲まれた「遊佐セカンドライフ」

2019/09/03

ギャラリー&ティールームsui 長登文一さん

景色と水に惚れた。あとは直感。

「ここに来たばっかりの頃ね、ウッドデッキでコーヒーを飲んでいたら、地元の人に鳥海山をひとり占めできていいねって言われるの。だからこの景色を眺めてぼーっとする時間っていいなって思って、カフェを作ったんだ」

いとも簡単にそう語る、ギャラリー&ティールームSuiオーナーの長登さん。(カフェもこの景色もみんなのもの。とおっしゃるゆえに、きっとオーナーという肩書きは使わない方がいいのかもしれませんが、尊敬の念を込め、あえて「オーナー」と書かせていただきます)

いわゆる会社勤めをしていた頃、人生の大半以上の時間、労力を仕事に使った「ファーストライフ」は横浜に住んでいた。そして12年前に「セカンドライフ」の場所として選んだのが遊佐町だった。

地方創生によって地方移住、二拠点生活など「地方イイね!」という風潮があちらこちらで囁かれるようになった昨今。今のように、お試し移住、移住までのステップ、移住のための相談窓口などない頃のお話。田舎暮らしというキーワードや田舎で暮らすためのHOWTO本があるには、あった。けれど現実的には「近くに病院はあるの?何かあったらどうするの?」と、周囲からは反対され、「こんなところで何するの?」と移住先の住民には笑われた。

そこで「なんで?病気にはならないから」と言いはり、「しがらみがない場所がいい」と新しいコミニティを作る気もなく、周りからは何か言われても特段気にとめず、ただ「好きなものに囲まれる暮らし」を選んだ。

だいたいにして本人には「田舎暮らし」という概念がない。

遊佐町を拠点に、海外など旅行に出かけるつもりでいた。
ピースボードの船に乗り様々な場所を訪れる中で日本が一番だって、気がついた。だから日本に帰ってきた。

遊佐町を選んだのは空気がきれいで「水」がきれいな場所だったから。

最後の決め手は
「富士山、阿蘇山、鳥海山と3つの選択肢があって、富士山は横浜に住んでいる時に見ていたからね、まぁいいかとなって。じゃあ阿蘇山か鳥海山の二択になって。たまたまテレビで最初に見た鳥海山の麓・遊佐町に惹かれて、そのまま住んだ」

そんな経緯。
セカンドライフの幕開けは、ひらめきと直感を信じて進んだことだった。

自分好みの空間を貫く

そうして「好きなものに囲まれる暮らし」は、北向きに窓を作る習慣がない庄内の人に驚かれながらも、田んぼが一望できて鳥海山を眺められる設計でこのカフェを作ったし、惚れ込んだ作家に懇願した作品だけを置いてギャラリーをはじめた。

「いきなりカフェとギャラリーだからね。二足のわらじをはくわけだから、どうなるかなーと思っていたけど、はじめてみたらここの自然や作品の魅力をわかってくれるお客さんが勝手に来てくれるようになったの。この場所に来たら肩書きなんてなんにもいらない。ただ、風景や作品なんかを一緒に楽しめる時間を共有できる。そんな風に空間って、お客さんたちが勝手に作ってくれるもんなんだな〜」

実際この場所、「居心地がいい」という言葉だけでは表せない。4つのテーブルが置かれたティールームの窓一面から鳥海山と田んぼを眺めていると、ギチギチに詰まった心にスーっとスペースができるような、きれいな空気が浄化してくれるような。無言の時間を楽しみたいような。まさに鳥海山ひとり占め時間を存分に味わえる。

「好きなものに囲まれた暮らし」でみえてくること

カフェの周囲に広がる庭や森も、思いつきで作ったもの。案内してもらいその場所に行ってみると、そこは鳥海山をベストポジションで眺められる場所だった。

「山を眺めるカップルふたりの後ろ姿なんて撮ってあげるとね、喜ばれるよね〜。記念写真で後ろ姿なんて誰も撮らないでしょ。仮にお忍びで来たふたりだったとしてもバレないでしょ!山メインで撮って人は小さく写すんだから」とガハハと笑った。

カフェを挟んだ向かいにある森には、オープン当初にカフェの壁面に描いてくれたアーティストの作品を飾る「作家の遊び場」を作った。そんな風にして日々、思いつきとひらめきと直感を頼りに、自分好みの場所を作り続けている。

「ここにいる人は何にもない場所だとか言うけれど、例えば旅の思い出って有名な場所とかではなく、コースにはなかった何気ない場所だったり、ちょっとしたアクシデントだったりするんだよね。だからここも、一面の田んぼを眺めながら何も豪華な料理じゃなくて塩むすびなんか食べられたらそれだけで最高なんだよね」

長登流「好きなものに囲まれた暮らし」は、シンプルに生きる豊かさや、庄内にある自然のすばらしさを再認識させてくれるようだ。

「最近ね、近くに土地を買った若者がいるの。比較的土地も安価な場所だから、そういう人がもっと増えてほしい。自由に自分たちで設計した家が2~3軒あると洒落た場所になると思うんだよね〜」としみじみつぶやいた。

最後に「冬の雪には泣かされませんでしたか?」とお伺いすると、

「雪?雪ねえ〜、雪も好きなんだよねー。だって、最高でしょ!ここ一面が雪景色になったら」とのこと。

そうそう、好きなもの「だけに」囲まれた暮らしなんだった。

ギャラリー&ティールームsui
営業時間:11:00~17:00
(5月~9月は11:00~18:00)
定休日:水曜日
Tel.0234-72-5757

この記事を書いた人

Honma Satomi

山形県庄内在住のフリーランスフォトグラファー。地域の広告、各種出版物などの取材・撮影の傍ら、庄内の様々な魅力を伝えるべく活動中。
 

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