アート・デザイン
【連載】ジャズベーシストが語る「超私的JAZZのはなし」
①ジャズベーシストへの入り口
「なんでベースなんですか?」
しょっちゅう聞かれる質問である。
私が演奏するコントラバスはとても大きな楽器だ。
ジャズでベーシストといえば、大きな男の人が弾いているイメージがあるのだと思う。ジャズの世界でも女性ミュージシャンが増えた。でもまだまだ女性ベーシストは少ない。確かにその質問は出てくるでしょう。私がもしもお客さんの立場なら質問すると思う。
多くの人から、「学生の頃から演奏しているの?音大出身?」と聞かれるが、私がこの楽器を始めたのは会社員を辞めてからだ。
私は小学生の頃から鼓笛隊で打楽器を始めて、それからずっと打楽器を演奏してきた。大人になってからジャズを聴いて、「ジャズベースを弾いてみたい!」と思って、ベースを習い始めた。
実際にはじめてみてわかったことだけど、ベーシストはけっこう大変だ。
コントラバスという楽器は高価だし(車が買える)、自分の背が低い割に(154cm)楽器は大きいし(190cm)、運ぶの重いし(20kg)、弾くのだって大変。見ればわかっていただけると思うけど、弦だってかなり太い。弾き始めた頃なんて毎日右手(弦を弾くほう)の水膨れと血豆との戦いである。
会社まで辞めてベースを弾こうというのだから、よほど目標とするミュージシャンがいたのか、と思われがちだが、アイドル的なアーティストがいたわけでもなかった。最初は「ジャズベース」というものがどんなものかもよくわかっていなかった。多くの人が感じるように、ジャズという音楽は難しく、よくわからない音楽だった。
でも、ある日、突然、ジャズがもの凄くかっこよく聴こえ始めた。全く違う世界に来たように、むちゃくちゃかっこいい音楽に聴こえてきた。その当時、毎日聴いていたのは、トランペッターMiles Davisの名盤、「Relaxin’」だった。聴けば聴くほど、どんどんかっこよく聴こえる。
左・Miles Davis「Relaxin’」(1956)
Miles Davis, trumpet / John Coltrane, tenor sax / Red Garland, piano / Paul Chambers, bass / Philly Joe Jones, drums
右・Paul Chambers 「Bass On Top」(1957)
Kenny Burrell, guitar / Hank Jones,piano / Paul Chambers, bass / Art Taylor, drums
このアルバムでベースを弾いていたのはポール・チェンバース。この人が私のジャズベーシストへの入り口となった。
ジャズの特徴は、大きく言うとスイングというリズム、インプロビゼーション(即興)にあると思う。同じ曲を演奏しても二度と同じものにはならない。楽譜に書いてあるものを演奏するのではなく、ミュージシャンは即興で演奏している。
この2大特徴を支えているのがベースである。
ソリストが気持ちよく、どんどんかっこいいフレーズを演奏できるような「4つの音」選び。もちろんリズムもすごく重要だ。
どのタイミングで弾くか、どれだけ音を伸ばすか(ライブの最中は忙しくてここまで考えて弾いてる訳ではありませんが)。
この4beatを弾く、ということが私は大好きなのだ。
とにかく1小節に4つの音を弾く。シンプル。でも、シンプルな事ほど奥が深い。
この深みにハマって、ベーシストを続けてるんだと思う。
若林美佐ウェブサイト
www.misawakabayashi.com
食堂 アルペジォウェブサイト
www.soundkitchen.jp
若林美佐Misa Wakabayashi
大阪生まれ、奈良育ちのジャズベーシスト。2017年、結婚を機に鶴岡市に移住。あちこちで演奏しています。令和元年5月には夫とともに「食堂 アルペジォ」をオープン。お店でも時々ジャズライブを開催しています。