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【連載】離島メガネ④ リモート・アイランド

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【連載】離島メガネ④ リモート・アイランド

2020/08/11
海上から飛島を望む

先日、飛島でオンラインイベントを開催した。里帰りした飛島で島民と共に地域に伝わる伝説の秘密を解いていくというストーリーで、参加者はパソコンやスマートフォンなどの端末で好きな場所から参加できる。録画は使わず全てライブ配信だったので、台本づくり、カメラの切り替え、BGMの選定など、まるで簡易的な演劇か映画を制作しているようだった。

一言でいえば、「島に行ったような体験ができる」というバーチャルツアーであり、全国的にも同じような取り組みが次々と実施されている。プロジェクトを進める上で「島に行ったような」感覚を作るために、船に乗る場面が必要だという話になった。「島に行く」とは、つまり海を越えて陸地から離れた土地に行くということで、本土側の地域とは決定的に違う要素である。インターネット技術で自宅からリモートで島に行けるはずなのに、わざわざ物理的に断絶された演出をする。

出航時間を待つ定期船

そういえば、島では別れの日に、船で去る人と港で送る人を紙テープで繋いで見送りをする。または、大漁旗を振ったり太鼓を叩いたりすることもある。長年暮らした人だけではなく、数日間の滞在でも大々的に見送ることがある。家に帰ってからスマートフォンでいくらでもやりとりができるし、本土に渡った際にふと出会うこともあるのだが ──。

見送りはテープで繋ぐ
別れに涙ぐむ

考えてみれば、現代には「別れ」の機会が少ないのかもしれない。リモートによる連絡方法は、年ごとに解像度を高めて、相手がまるでそこにいるかのように感じられ始めた。しかし、わざわざ船に乗って海を越えて島にやって来る人は絶えないだろう。

島に暮らした若者の見送り
見送る人たちに手を振る

このオンラインイベントは、参加者67人のうち約6割が来島経験のない人だった。その中で先祖が飛島の人だという参加者がいた。親族に飛島出身者がいるという話をされることは少なくない。来島経験者はもちろん、親戚や友人に島に関係する人がいるといった場合でも「飛島」は話を盛り上げるキーワードになる。

飛島は、酒田港から沖合39kmにある。陸地で考えれば、隣の町へ移動するほどの距離である。ところが「飛島」という場所は、人々の記憶にしっかりと仕分けされて残っている。その印象を生み出す力のひとつに「別れ」があるのではないだろうか。飛島はかつて「別れ島」と呼ばれたことがあるそうだ。海水浴場となっている小松浜には悲恋の昔語りがある。幕末の頃、島には小松という美しい娘がいて、藩命を受けて島にやって来た武士と恋に落ちる。任期が終わり再会を誓って別れた娘は男の迎えを待つが、彼は戦乱の中で命を落としてしまう。それを知る由もない娘は長いあいだ戻ることもない男を待ち続け、やがて悲観して海に身を投げてしまった。

小松浜(海水浴場)

いくつか残る別れのエピソードは、作り話かもしれないが、島に暮らしていると本当にあった出来事のように感じてしまう。飛島というリモート・アイランド(離島)は、今では珍しい「別れ」が残されている場所なのだろう。


合同会社とびしま
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この記事を書いた人

Matsumoto Tomoya

1988年山口県生まれ。2012年に山形県の離島・飛島に移住し、島の仲間たちと「合同会社とびしま」を設立する。社内では、企画とデザインを主に担当。飛島を舞台に新しい自治体のかたちを模索中。
 

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