暮らし・ライフスタイル
【連載】日々是好日④~根菜の季節
今住んでいる場所や人、環境に感謝をし、その中で自分に出来る事は何かを考えて日々精一杯生きていくことが出来ればどんなに楽しいだろう、そう思ってこの先もずっと過ごしていきたいと思っています。
先日我が家の畑で毎年恒例のサツマイモ掘りをしました。
夏野菜のように実を採る作業とは違い、力仕事で土にまみれ、大地に触れる芋掘り。子どもの頃はよく土や泥にまみれて遊んだりしていましたが、近頃はなかなかそんな機会もなく、長靴を履いてカマやスコップを使い土を掘り出して汗をかく時間は清々しいものです。
年齢を重ねる毎に土と戲れるのが気持ちよく感じるのは、農家に生まれ里山で暮らしてきた私にとってはやはり自然なことなのだなとしみじみ思います。
私は両親に「農業はやらないから期待しないで」とずっと言ってきました。
その気持ちは今でも変わりませんが、農業が嫌いなのではなくそれを生業としていくことの大変さを両親のそばでずっと見てきたこともあり、自分にはできそうもないというのが本当のところです。
畑仕事は手伝わず、収穫にだけ行くとやや嫌味を言われますが、自分が楽しみながらできる「料理をする側」としてその恩返しをと思いながら、野菜を頂戴しています。
この季節、仕込み開始の朝は厨房にたくさんの根菜がゴロゴロと並びます。
サツマイモ、カラトリイモ、ジャガイモ、カボチャにゴボウ…。
根菜はどれも私の大好物で、この季節はおまかせ料理のプレートに根菜料理が色々登場します。特にサツマイモが大好きで小さい頃から母に「おめはイモねえちゃんだの」と言われる程でした。
早朝はかなり肌寒く、店に着くとまず一晩水に浸していた昆布が入った寸胴鍋を火にかけます。
出汁が取れたらイモやカボチャを切り、コトコト煮たり蒸したり。一気に火を使い仕込みをするので湯気で窓の四方が白く曇り始めます。その様子を眺めているのがとても好きで、これからの季節は寒くても朝の仕込みが特に心地よく感じ、四季の中でも一番好きな季節となりました。
コトコト野菜を煮込み、湯気の立つ台所。
それは幼い頃、おばあちゃんや母が台所に立つ後ろ姿と一緒にぼんやりと見えていた家庭の味を作くりだす台所の風景です。
幼い頃から私が見てきた農家の我が家は裕福ではありませんでした。休みの日もなく、ただただ毎日忙しそうに働いていた姿しか思い出せません。のんびりしている姿を見たことや家族旅行に行ったこともほぼありません。
ただ、どんなに忙しくても惣菜を買ってきたりせずにうちの畑で採れた野菜を使って、地味で華やかさはないですが、食卓には二品、三品料理が並び、ご飯を炊き、味噌汁は必ず毎食、そして家族全員揃って食事をしていました。
その食事のお陰で今の私が在ります。
私は長い間愛情をたくさん注がれて育ったのを忘れていたのでしょうか。
あれやこれやがないから幸せじゃないと思ったり、よその家と自分の家の違いが気になったり。
今頃になって、とても豊かだったのだなと、煮物の湯気で曇る窓を見ながら思うのです。
写真/土田貴文
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長南みゆきChonan Miyuki
食生活の管理不足が原因で体調を崩し、東京よりUターンした後、家の食事で体調が戻り食の大切さに気づく。2003年に母と農家レストラン「知憩軒」を鶴岡市の自宅で開業。2017年独立し酒田市に「daybyday」開業。庄内の野菜をベースにした郷土料理、日常料理を提供している。