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今井繁三郎ファミリーが紡ぐ『羽黒・芸術の森』物語

アート・デザイン

今井繁三郎ファミリーが紡ぐ『羽黒・芸術の森』物語

2019/07/01

今井氏が自ら開墾した森で、アートと自然の共存を

平成から令和へ移り変わる新時代、最初で最後の元号またぎのゴールデンウィークに、ひとつの時代の変化を体感すべく『羽黒・芸術の森』へと足を運んだ。

県道47号鶴岡羽黒線から南に車を走らせ五分ほど、柿の木畑が広がる道からほどなくして訪れる案内看板を目印に向かう。

小さな小径をそのまま進んでいくと、「今井アートギャラリー」アトリエ「工房いずみの」そしてレストラン 「 オーブンカトウ」が現れた。ここ一帯が今回の目的地『羽黒・芸術の森』。

こっちの道でいいのかな?と少しだけ迷いそうになるが、その感じもまたいい。自分だけの秘密の場所のような、だけど誰かに教えずにはいられないような、とにかくそんな場所だ。

散策路には市内より少し遅くめに咲いたしだれ桜と新緑の芽吹き。鳥の鳴き声も心地良く鳴り響く。

ギャラリーでは、心象画家今井繁三郎氏の400点に及ぶ作品とともに世界各地を旅した氏のコレクション1000点ほどを収蔵・展示している。

1910年(明治43年)生まれの今井氏は旧制鶴岡中学(現鶴岡南高等学校)卒業後画家を目指し上京、その後35歳で郷里に戻り、開墾した自然の中で暮らし、画家として営みを続けた。「今井繁三郎美術収蔵館(現今井アートギャラリー)」は氏が80歳になった時に自ら設立したものだ。

ざっくりとこの経歴だけでも、当時にしては破天荒なタイプと思えるが、今井作品もなかなか。赤や黄色、青などの大胆な色使いと構図、太い線の中に真っ赤な丸の絵などなど。見方捉え方でそれぞれの楽しみ方が幾通りにも広がる。ちなみに個人的にはこの多国籍な感じ「すごくタイプ」!

しばらく観賞をしていると、3歳くらいの女の子を連れた親子がやってきた。絵を興味深そうに眺めたり、ピアノをさわったりと、まるで女の子も空間にとけこんだひとつの作品のよう。この空間はいわゆる美術館のマナーとはちょっと違ってなんだか微笑ましく思えた。

地元が羽黒町ということで訪れたその親子は「子どもと一緒に楽しめる雰囲気と、絵もそうだけど自然が身近にある感じがすごくいい!」うん、よくわかります。私も学生時代は知らなかったのが悔しいくらい、アートと自然の共存が、すご〜くいい。

「今井繁三郎美術収蔵館」は今井氏亡き後も12年間営業を続けたが、2014年に一旦クローズとなる。清掃や管理に追われ、企画展などになかなか手が及ばず積極的に来館者数を伸ばすことが出来なかったのだ。

その後、である。

「おじいちゃんが残したこの場所をなんとか続けたい」そんな想いから、今井氏のお孫さんである13人の「いとこ会」が自発的に運営継続するための活動をスタート。

そして地元ボランティアの方々の支援を受けながら、美術館だけにとどまらず、アーティストや地域の人々が気軽に集える拠点にしたい。というコンセプトのもと行動を起こした。

そんな姿を見て、今井氏の四女であり館長を務めた齋藤木草さんも、「今井アートギャラリー」として継続を決意する。

そして2016年(平成28年)春に「羽黒芸術の森」としてリニューアルオープン。

現在、運営の主体は「いとこ会」の若いパワーに任せて、木草さん自身はサポートにまわっている。「それってすごく幸せなことよね」

食とアートが出合う「工房いずみの」

じっくりとギャラリーを堪能したところで工房いずみのにあるレストラン 「 オーブンカトウ」でランチタイム。

ここは「いとこ会」の加藤博紀・あさ野さんご夫妻が担当だ。元々は東京吉祥寺で10年レストランを営んでいたが、創作と食が共存する場所を作るというもうひとつの目的のため、2年間の準備期間を経て移住に至った。

かきいれ時のゴールデンウィークとあって、この日は「いとこ会」から2名がヘルプにやってきた。

「レストランが出来たことでいい意味で敷居が低くなり、今まで知らなかった人たちにも足を運んでもらえるようになりましたね」

「小さい時から夏休みになると足を運んでいた大切な場所。自分が思っていた以上に、いとこ達の気持ちがひとつだったこと、それぞれの出来ることで関わりながら、離れていてもみんながここを気にかけているんです」

館長木草さんの次女わかなさん、東京から駆けつけた芽ぶきさんが忙しい中嬉しそうに語ってくれた。

オープンは雪が降る11月下旬まで。その間レストランを運営する紀樹さんとあさ野さんは地元酒蔵で酒の仕込みを習う。庄内ならではの新しい働き方だと思った。

いとこ会はまだまだやりたいことがある。そのひとつとして、新しく森を開き、9㎡ほどの小屋を建てた。フリースペースとして制作活動などにも開放する予定だ。『羽黒・芸術の森』は自然界の営みに合わせる様にこれからも少しずつ変化を重ね、未来へと紡いでいく。

(写真・文=本間聡美)

羽黒芸術の森 今井アートギャラリー
山形県鶴岡市羽黒町仙道字一本松5-175
Tel.0235-62-3667
http://www.imaimuseum.net/

この記事は地域情報誌クレードルの下記の号に関連した内容です。

2019年5月号

特集:今井繁三郎と芸術の森

この記事を書いた人

Honma Satomi

山形県庄内在住のフリーランスフォトグラファー。地域の広告、各種出版物などの取材・撮影の傍ら、庄内の様々な魅力を伝えるべく活動中。
 

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