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フランス風郷土料理 ル・ポットフー

食・食文化

フランス風郷土料理 ル・ポットフー

2019/10/22

45年間のおいしい記憶。

クレードル2019年9月号「味なおもてなし」で紹介している「フランス風郷土料理 ル・ポットフー」のクラシカルな店舗は、来年秋、移転リニューアルによってその歴史に幕を閉じます。45年という歳月の中で、さまざまなドラマが起こったその舞台に敬意を込めて、その店舗について紹介します。

45年前の駅前再開発のシンボル

令和元年現在、再開発工事が着々と進むJR酒田駅前地区。ル・ポットフーはその中心エリアに位置する日新開発ビルにあります。昭和の時代を彷彿とさせるビル1階のホールを進み、エレベーターに乗ってレストランのある3階へ。扉が開くと、暖かなオレンジ色のランプが灯る華やかでクラシカルなエントランスが現れます。そして毅然としつつもにこやかな給仕スタッフから案内されて席に座ると、まるで自分がどこかの国にタイムスリップしてしまったかのような錯覚を覚えます。

エレベーターの扉が開くと現れるエントランス

ここ日新開発ビルのル・ポットフーは、市を挙げた駅前再開発事業のシンボルとして昭和50年12月にオープンしました。当時閑散としていた駅前にジャスコを誘致すると同時に、地元有力者の五十嵐董さんが酒田東急プラザビル(現在の日新ビル)を建ててホテルチェーンの東急インを誘致。集客のための仕掛けとして、当時清水屋デパートで人気を博していたル・ポットフーを出店したのです。3階レストランの広さは80坪。4階から6階には宴会場と結婚式場を有し、最も大きな4階ローズルームは100坪の広さ。支配人は、清水屋のル・ポットフーを任されていた佐藤久一さんでした。

地中海に浮かぶ豪華客船

佐藤久一さんは東急プラザビルのル・ポットフーを、女性と子どものための家庭的なフランス田舎料理を提供していた清水屋店と差をつけて、一段上の味とサービスを提供する店舗にする方針を固めます。そして酒田の魚市場で仕入れた地魚をメインにしたおまかせ料理を主軸に、内装を地中海に浮かぶ豪華客船のイメージで統一。以来、久一さんはここを舞台に、ル・ポットフー初代シェフの太田政宏さんと “客に感動を与え、幸福感を抱いてもらえる最高のレストランにしよう”と、数々の伝説を創ってきました。

昭和50年代、連日のように全国から食通が押し寄せ、マスコミ取材も殺到したル・ポットフーは、日本屈指のフランス料理店として名を馳せました。

現在の支配人である小松俊一さんは話します。
「内装はその当時から何も変わりません。家具も照明も壁紙も、すべて久一さんが当時スペインから輸入したものです。今となってはもう製造されていないものばかりなので、まさにここにしかない一点ものといえるでしょう」。

また店内の内装を彩るのは久一さんこだわりの輸入家具や照明だけではありません。各所に飾られたお客様寄贈の絵画やオブジェといった芸術品や調度品の数々が、ル・ポットフーの気品と文化度の高さを物語っているのです。中には、酒田市出身の写真家・土門拳から贈られたというピカソのデッサンと藤田嗣治の版画もあります。

写真家、土門拳寄贈のピカソのデッサン
個室「ル・シャトー」で内装について説明してくれた現支配人の小松俊一さん。
佐藤久一さんはこの部屋に特に思い入れがあり、特別なお客様が来店した時だけ使用したといいます。
当時としては珍しいオープンキッチン。この奥に大きな厨房があり、そこで4階や5階の宴会場などすべての料理を作ります。
クレードル2019年9月号「味なおもてなし」でも紹介している「鯛の塩窯焼き」のように、昭和、平成、令和と時代を超えて受け継がれている料理も多くあります。

創業時の魂は新たな店舗へ

「こんな小洒落たお店をあの時代にこの田舎町に作るなんてね。久一さんはオシャレですごくカッコいい方でした」。そう話す現在5代目シェフの加藤忍さんは、ル・ポットフーのフランス風郷土料理に衝撃を受けて入社した昭和60年以来、お店の味を守り続けてきました。

「北海道から沖縄まで、ル・ポットフーの料理を食べるためにわざわざ遠方からいらっしゃる方々も多くいます。そういう方々はここに来るまでの旅の行程も物語になっているんですね。そしてここで食事をして満足して帰っていく。だからこそメニューは、昔ながらのオーソドックスな料理スタイルが多いですが、おいしくなくてはいけません。おいしいものを食べれば笑顔になるし、記憶にも残ります。このおいしさの追求は、ずっと続けていきたいですね」。

昭和60年に28歳で入社した加藤シェフ。当時、ル・ポットフーの入社希望者は後を絶たず、加藤さんは2〜3年待って入社しました。

加藤シェフは今、新しく移転リニューアルする店舗の準備で大忙しです。かつて駅前再開発のシンボルとして誕生したレストランは、令和の時代の駅前再開発事業の一環で生まれ変わるのです。

「45年間の歴史が詰まったこの店舗がなくなるのは名残惜しいですが、新しいスタートですからね。ここが45年間皆さまに愛されてきたように、新しい店舗も20年先、30年先も皆さまから愛されるレストランにしていきたいです」。

港町酒田の駅前ビルを舞台に、昭和、平成と数えきれないほどのドラマを生み出してきたル・ポットフーも、現在の店舗で食事を楽しめるのは来年秋までです。おいしい思い出を創りに、酒田駅前に足を運んでみませんか。(2019年取材時)

(文=長谷川結 写真=間真由美)


フランス風郷土料理 ル・ポットフー
山形県酒田市幸町1-10-20 日新開発ビル3階
Tel.0234-26-2218
http://lepotaufeu.com


この記事は地域情報誌クレードルの下記の号に関連した内容です。

2019年9月号

味なおもてなし:フランス風郷土料理 ル・ポットフー

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

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