Gradle Plus

MENU
HOME記事一覧食・食文化
庄内食べ放談 第2回
「音の料理人、食の音楽家」
奥田政行シェフ×福田進一さん

食・食文化

庄内食べ放談 第2回
「音の料理人、食の音楽家」
奥田政行シェフ×福田進一さん

2025/07/24

[左]奥田政行(おくだ・まさゆき)シェフ/アル・ケッチァーノシェフ。イタリアンをベースとした素材料理を軸に独自の料理理論を確立。新著『勝手に庄内100景』は2026年刊行予定。

[右]福田進一(ふくだ・しんいち)さん/クラシックギタリスト。日本のクラシックギター界のマエストロとして世界的に活躍。庄内との縁は長く、2020年末に庄内町に移住。

ギタリスト福田進一さんと奥田シェフとの出会いは2004年。福田さんは翌年の2005年に庄内町響ホールで開催された「庄内国際ギターフェスティバルin響」の音楽監督を務め、そのレセプションでは奥田シェフの料理が振る舞われました。名だたるギタリストたちが若きシェフの料理をたのしみ、福田さんの師であるマエストロ、オスカー・ギリアさんも その味にとても感動したといいます。出会いから20年、庄内に移り住んだ福田さんと奥田シェフによる、音楽と料理を愛する2人の対談が実現しました。

福田さんが2006年にリリースしたCDアルバム『ロッシニアーナ』(日本コロムビア)ジャケットのギターケースの中の食材は奥田シェフが庄内から集めたもの。ライナーノーツにもロッシーニにちなんだ料理と文章を寄せています。

福田 庄内国際ギターフェスティバルのレセプションで奥田シェフが料理を作ってくれたのが2005年。シェフが海に山にと駆け回って庄内の食材を集めてきてくれて、その姿や考え方がとても印象的でした。

奥田 オスカー・ギリアさんが嬉しそうに食べてくれた時は、自分が信じた道を進んでいいんだって初めて思えました。一流のギタリストの皆さんの演奏で、ソロ、デュオ、トリオと音が重なっていくのを聞いて、「これだ!」と、自分の中で漠然としていた料理と音楽の関係性が形になったのもその時。ソロは存在自体がカリスマで、食材でもカリスマ的なものがある。デュオは聞き飽きることのない良い相性。新米ごはんといくらみたいに食べ飽きない。トリオは音を聞き分けられるから1皿に入れる食材は3つまでにして5:4:1の音の割合がいいとか。

福田 音楽と料理の共通点は多いですよね。やわらかい、かたい、いわゆる「テクスチャー」って食感にも音楽にも使う言葉でね。ロッシーニが音楽家であり美食家であったように、音楽と料理はどこか深いところでつながってると思う。

福田さんと師オスカー・ギリアさんとの思い出にちなんでシェフが作った「月山産ポルチーニ(ヤマドリダケ)のパスタ」。ポルチーニの濃厚な香り。

奥田 ギターフェスの時、皆さんが子どもみたいな目をして食べていて、音楽家は食べることに貪欲だなと思いました。

福田 そうですね(笑)。食べることに興味のない人で成功した人は見たことない。あと、料理も音楽も「余韻」だと思います。演奏会も食事もマイナスの余韻の方が後々引きずってしまう。名演を多く聴くとひどい演奏がわかってくるから、いいものを食べるのがいいですよ。いいもの、新鮮なものを食べる。ライブの新鮮ないい音楽を聴く。

奥田 新鮮でいいものがあるから福田さんは庄内に移り住んだんですよね。

福田 そうです(笑)。オスカー先生が「音楽は生きてるか死んでるかのどちらかだ」って。一つ一つの音が生きていなければダメって、そればっかり言ってた。奥田シェフの5:4:1の法則でいうと、主要三和音ドミソのドが死んだ音だとミが乗っかりようがない。そんなミなら蝉でも言うわ、みたいなね(笑)。最初にポンと出す音が生きてるかどうか。本能的にそれがつかめている人っているんだよね。奥田さんもその1人だと思う。

奥田 それで言うと、井上農場の井上さんから「スーパースターは何でもでぎねばダメだぜ」って言われたことがあって、スーパースターとスーパーヒーローと呼ばれるキャラクターを全部書き出してみたんです。 

福田 シェフのそういうとこ面白いよね(笑)。

奥田 そしたらスーパースターには必殺技がある。僕も必殺技を持たなきゃダメだって。音楽家でもすごい人は自分だけのパターンみたいなのを持ってますよね。だから僕はソースを使わないことにして。庄内は素材がおいしいから素材が料理の中心にいるべきで、素材同士が共鳴する料理が一番いいって気がついたんです。5:4:1もその技の一つです。

福田 素材への敬意だね。音楽だと作品への敬意になるかな。

奥田 敬意を示すにはまず「知ること」で、人を好きになるとその人のことをもっと知りたくなるじゃないですか。僕は素材を好きになるから、原産地はどこで、味のチャームポイントはここ、そこが光る瞬間に合わせて、自分の必殺技を繰り出す。

福田 光る瞬間、いい言葉だね。結局は好きかどうかで、僕もギターをやっていなかったらフランス語を話すようになるなんて思わなかった。好きなギターのおかげで世界中に行けるようになりましたからね。

奥田 好きなことをしていてもやっぱり辛い時、料理人なら修業時代とかを助けてくれるのが音楽。音楽家を助けるのは練習や演奏後の料理。食べることと音楽は、いつかどこかの時代にもっと近くなると思うんです。

福田 食材は作品で、演奏するのが料理人。シェフはそれを若い時からやってきた。人生ずっとクレッシェンドで、本当にすばらしいことだね。

“料理人を助けてくれるのが音楽で 音楽家を助けるのは料理” ── 奥田
“食材は作品で それを演奏するのが料理人” ── 福田

2005年8月の「庄内国際ギターフェスin響」の歓迎レセプションにて。左から福田さん、オスカー・ギリアさん、奥田シェフ。

Al ché-cciano
鶴岡市遠賀原稲荷43 TEL/0235-26-0609
営業時間/昼11:30〜14:00(LO) 夜18:00〜20:30(LO)

Recipe

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

Cradle 最新号
クレードル旅行倶楽部
ONLINE SHOP
サポーター募集