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庄内食べ放談 第3回
「山形、日本酒テロワール」
奥田政行シェフ×佐藤一良さん

食・食文化

庄内食べ放談 第3回
「山形、日本酒テロワール」
奥田政行シェフ×佐藤一良さん

2025/07/24
[左]アル・ケッチァーノ 奥田政行(おくだ・まさゆき)シェフ/料理と日本酒やワインのペアリングを数値化した味覚チャートを開発。今秋、山形県酒造組合の招きでヨーロッパでの日本酒のイベントで料理を担当。
[右]鯉川酒造株式会社 佐藤一良(さとう・かずよし)さん/今年創業300周年を迎える庄内町の鯉川酒造11代目。「亀ノ尾」の復古もけん引し、県産米の純米酒の造りにこだわる。山形県酒造組合会長。

2024年末、日本酒や焼酎などの「伝統的酒造り」が ユネスコの無形文化遺産に登録されました。今、山形県には48の酒蔵があります。2016年に日本酒の地理的表示「GI」に指定された山形の酒造りは 地域を超えて酒蔵同士が技術や知識を共有し、全県で高みを目指してきた歴史があります。 今回のゲストは、山形県酒造組合の会長を務める鯉川酒造の佐藤一良さん。旧知の仲のペアリング対談を肴に、皆さまもぜひ今夜一献。

この日の鯉川酒造のお酒リスト。(左から)「水酒蘭(みしゅらん)」はアル・ケッチァーノの特別ラベル、純米吟醸。「特別純米BLACK KOIKAWA」は先入観なく楽しめるようにスペックは無表示。「純米吟醸 あたためますよ」は燗酒に合う酒造りを得意とする鯉川酒造の真骨頂。「特別純米 DRY鯉川」は料理に合わせたい夏の辛口。

佐藤 2000年、アル・ケッチァーノがオープンして半年くらいの時、ハーブ研究所スパールの山澤(清)さんが奥田シェフに試練の「十番勝負」をしていて、お酒とのペアリングをシェフと一緒に考えた時期がありました。懐かしい思い出です。

奥田 トドとか虫とか生ハムでフルコースを作る、そこにワインや鯉川さんのお酒を合わせるっていう。料理は本に載ってないしお酒も合わせないといけない。その狭い味のストライクゾーンを探ったことで、僕の料理のチャクラが開いたんです。

佐藤 その後シェフがヨーロッパのフェアから帰国してからの料理は自信にあふれていました。「向こうでお寿司を握った」と言って、酢のかわりにバレンシアオレンジを使って酢飯にしてお寿司を握ってくれたのを、うちの子が食べて大絶賛して。それが今のオイル寿司につながったと思うと感慨深いなあ。

奥田 その後テレビに出てからはすごい量の取材や県外出店の話もあって、忙しさで鬱々し出して。そしたら佐藤さんが山形県酒造組合のペアリングの会に僕を講師として呼んでくれました。

佐藤 県内のお酒をシェフはいつもまめに利(き)き酒していましたから。

奥田 日本酒のペアリングの仕方を発表しないといけないけど、 勉強しようにも心が病んで本が読めなくて。自分の感覚だけが頼りだったから、オリジナルのペアリングの仕方になりました。

佐藤 でもそうやってニュートラルに味のバランスを見るのが利き酒の上手なやり方。しかもシェフのコメントが的確で。

奥田 その頃、僕の料理が理解されなくてつらかった時も山形の酒造組合さんが声をかけてくれて。恩返しをしようと思って頑張ると、4倍返しされて、また僕が8倍返しする。そうするうちに日本酒の知識が増えたんです(笑)。たくさん経験させてもらったから、国内外のペアリングの会に呼ばれるようになってからも自信を持って「このお酒はこうです」って言えるようになりました。少しは日本酒ブームの役に立てたかなって。

佐藤 味覚のチャートを作ったのも画期的でした。お酒単体の分析じゃなく、料理とお酒の組み合わせを導き出す。ペアリングの味の数値化というかな。

奥田 お酒に合わせて料理を作る考え方で、料理の味に対比させて合わせるのがワインで、料理と同化させて味わいを広げるのが日本酒のペアリング。ワインは酸味で油分を断ち切って、日本酒は甘みとコクがうまみを引き立てる。うま味の数も多いから、料理と合いやすいんです。

佐藤 山形の米を使った純米吟醸DEWA33に限って言えば「やわらかくて幅のある味わい」なんです。

奥田 山形のお酒は水質の関係かどの地域のお酒もきれいな味で、蔵ごとに香りが違いますね。

シェフがお酒と料理の相性を独自に体系化した「味覚チャート」。奥田政行著『食べもの時鑑』(2016年、フレーベル館)より。

佐藤 県内48社みんながオンリーワンで、唯一無二が集まってお客様の好感度ナンバーワンになることを目指してきました。今、僕が県酒造組合会長の任期中にやろうとしているのは、山形のお酒と奥田シェフの料理で世界に出ていくこと。山形の日本酒とイタリアンとしてじゃなく、山形の酒と世界の食のカルチャーとしてね。シェフのことを僕はイタリアンだけにカテゴライズされない食文化の総合プロデューサーだと思っていて、その実、中華も寿司もフレンチもマレーシア料理だって作る。海外の人たちが好きなのはやっぱり自国の料理ですから。各国の郷土料理に、山形の純米酒の辛口が合いますとか、山形の香り系の酒はいいですよとか、シェフはそれができる。そうしていつか、GI山形のお酒が世界に広く知られるようになればと思います。

奥田 自分の国の料理と食材に、この日本酒を合わせるとおいしいってわかってもらうことが大事なんですよね。

佐藤 今年の秋、イタリアのミラノとフランスのパリで山形のお酒とシェフの料理のペアリングのイベントが実現するので、最高のパフォーマンスを見せてきましょう。

奥田 お酒の業界にはこれからも恩返ししていきたいので、期待以上に応えられるよう頑張ります!

“お酒だけの味わいを 楽しむのもアリ。
でもシェフと僕はずっと 「料理と酒」なんです”── 佐藤

“日本酒は料理の ストライクゾーンが 広いお酒。
和洋中、料理のうま味を ふくらませてくれます”── 奥田

鯉川酒造は享保10(1725)年に創業。阿部亀治をはじめとする水稲の民間育種家を多く輩出する米どころの庄内町で、地元の米と水と人による全量純米酒を醸す由緒ある酒蔵。

Al ché-cciano
鶴岡市遠賀原稲荷43 TEL/0235-26-0609
営業時間/昼11:30〜14:00(LO) 夜18:00〜20:30(LO)

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

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