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庄内食べ放談 第4回
「庄内発、食文明改革」
奥田政行シェフ×冨田勝さん

食・食文化

庄内食べ放談 第4回
「庄内発、食文明改革」
奥田政行シェフ×冨田勝さん

2026/01/16

[左]アル・ケッチァーノ 奥田政行(おくだ・まさゆき)シェフ/生産者と消費者をつなぎ、都市と地方をつなぐガストロノミーツーリズムを庄内で実践。食への知的好奇心を満たす旅と料理を提供している。
[右]慶應義塾大学名誉教授 冨田勝(とみた・まさる)さん/2001年に慶應義塾大学先端生命科学研究所所長に就任。現一般社団法人鶴岡サイエンスパーク代表理事。庄内にサイエンスとテクノロジーの風土を築き、育ててきた第一人者。

文化や伝統を映したその土地の食と社会にインパクトを与える科学研究。交わることのなかったこの2つを結んで新たな事業や産業を興していく「鶴岡ガストロノミックイノベーション計画 」 が、2025年にスタートしました。研究組織となる「鶴岡食文化創造研究所」所長の冨田勝さんは文理融合の考え方を持つ革新的な科学者で、一方の奥田シェフは、科学の視点を持つ料理人。天才と呼ばれるお二人の対談は、紙幅に収まりきらない広がりを見せました。

※ 鶴岡ガストロノミックイノベーション計画とは、内閣府の地方大学・地域産業創生交付金事業の採択を受け、山形大学、慶應義塾大学、鶴岡市が連携・推進する10年間のプロジェクト


冨田 世界にはフードサイエンス、食科学の研究所がたくさんあるなかで、鶴岡が世界に先駆けてやるべきことは「食文化と食科学の融合」だと思います。食科学はサイエンスですから、客観性、再現性、最適化といった数字が重要。一方で食文化は伝統とか物語が重要ですね。この2つは学問として交わっていない。例えば「おいしさとは何か」という場合、「心を込める」とか「大地の恵み」とか「素材の気持ち」といったことは、科学者からすると合理的に説明できないポエムなんですよ。でも科学者だって心を込めることがおいしさや料理に重要だって知ってる。けれどもまったく学問として説明がつかない。この文系と理系を分けたような考え方をなんとかしたくて、「食文化と食科学の融合」を目指そうということなんです。奥田さんはストーリーテリングが上手で、生物学的な話も混ぜ込んでくるので、科学者が聞いても単なるポエムではなく合理的なところが面白いですね。

奥田 食科学でいうと、人がおいしいって感じるのは口の中でバランスがいい料理です。日本人がしょっぱいおかずにごはんを食べて調節するみたいに。その味の調節を調味料じゃなく食材同士で補うことができるのが庄内なんです。ここは、食材のバリエーションは世界的に見ても、どう考えても世界一なんですよ。その地でガストロノミックイノベーションをやるのはすごくいいことだと思います。

冨田 じゃあ僕は食文化的な見方をすると、「いただきます」には生命をいただくという意味と大自然への感謝も込められていますよね。こうした日本人の食に対する考え方、自然を崇拝する精神文化というのは、世界に誇れることだと思うんですよ。それでいうと出羽三山は神仏習合で、神も仏も自然に対する感謝や畏敬の念は共通だと。じつに本質をついていて、鶴岡は食の精神性を世界に発信するのにすごくいい場所だなって。

食の文化と科学の融合、
それが庄内、世界の食の未来をつくると考えています。
── 冨田

燻製鶏ときのこの ボスカイオーラ
木こり風を意味するこちらのパスタには、しいたけやエリンギなど栽培きのこで食感を楽しく、燻製香で森の中の人間の営み、燃える火の香りを表現。トマトソースのパスタはフライパンをあおる回数でとろみの強弱をつけ、夏場はすっきりと酸を立たせ、冬場はとろみをつけて酸を丸くしてコクを感じさせるというもの。

奥田 イタリアンはザ・素材の料理で、食材ってすべて生き物、まさに八百万の神、この世の生き物はすべて神が創造した完全体であるっていう考え方なんです。庄内はその食材、生き物がいっぱいある場所。だから僕は庄内を食の聖地にするためにずっとやってきました。

冨田 奥田さんは若い頃にたくさん考えて、今言ったことが腹に落ちて「俺の人生はこれだ」って納得してるんですよね。僕はいつも講演の最後のメッセージで「夢中は努力に勝る」と言うんですけどね。日本人は努力が得意だし美徳だと考える国民性で、たしかに努力も必要だけども、努力だけで行けるところは限られていると思うんです。やっぱり好きだから夢中になるとか、どんな分野でもトップ中のトップの人は、金メダリストも含めてみんな自分の選んだことに夢中で大好きでしょ。

奥田 そうですね。プロとアマチュアの違いも3つのステージを越えられるかどうかで、最初が〝一生懸命〟。本来は「一所懸命」で、ひとつの与えられたポジションを守るステージ。次が〝真剣勝負〟で、気を抜かない、スキを見せない、絶対に失敗しないステージ。最後に〝夢中〟になってはじめて先手も読めるし、視界も360度になってプロの領域に行ける。

冨田 まさに人は誰でも得意不得意があって、不得意なところは得意な人にやってもらったらいいんでね。正解のある問いや合理的な判断は生成AIがやってくれますから、人間がやることはそこに自分の個性を突き刺して、自分のものにする。それがこれからの人間の役割になると思うんです。

奥田 僕は歴史が好きで、今の時代に自分が何をすべきかっていうのを歴史の流れから見てるんです。よく「この地域の食文化は」って言うんですけど、それはじつは食習慣で、食習慣を体系化して網羅した時に食文化に変わる。今は周りを見るとすごい人たちがいっぱい同時代に生きてるんで、みんな一緒になれば、庄内を世界に誇れる食文化都市にできるって。その都市に人が足を運んで、憧れて、真似されるようになれば文化は文明になる。そういう流れができるといいなって思っています。 

冨田 この地域の得意な部分をどんどん深掘りして、他が足元にも及ばないほどの圧倒的なものを磨いてね。鶴岡が中心になって日本の食文明改革を一緒にやりましょう、ぜひ。

奥田 喜んでやります!

食文化の次に食文明を起こす。
鶴岡ではできるとずっと前から思ってきました。
── 奥田

天然キノコのフェデリーニ 苔の香り
2016年、ヴィーガン世界料理選手権ベジタリアンチャンス3位のメニュー。天然きのこ5種類に塩とオリーブオイルだけで作る秋のスペシャリテ。きのこを複数組み合わせることでうま味が増すだけでなく、パスタのでんぷんが分解された糖とあわさってうま味が増幅。苔の香りを感じさせるディルは火を通してぬめりを出し、湿気のあるところで育ったきのこと食感を重ねた、秋の香りあふれる一皿。

Al ché-cciano
鶴岡市遠賀原稲荷43 TEL/0235-26-0609
営業時間/昼11:30〜14:00(LO) 夜18:00〜20:30(LO)

Recipe 

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

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