食・食文化
庄内食べ放談 第5回「お殿さまが暮らす町で」
奥田政行シェフ×旧庄内藩酒井家18代当主 酒井忠久さん・酒井天美さん


[中]アル・ケッチァーノ 奥田政行(おくだ・まさゆき)シェフ/庄内のさまざまな景色を観光資源として独自の視点で編集した『勝手に庄内100景』はようやくそろそろ刊行予定!膨大な編集作業を重ねた超力作です。
[右]酒井天美(さかい・あまみ)さん/東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。1971年、酒井家に嫁ぐ。1981年より長く松ヶ岡開墾場の継承と発信に携わり、主にギャラリーまつでは多くの著名人を招いて文化活動に尽力。致道博物館顧問。
奥田シェフと話していると「庄内藩が」「酒井のお殿様が」という言葉がよく出てきます。まもなく出版される著書『勝手に庄内100景』にも庄内藩にちなむさまざまな景色が紹介されるようです。酒井忠勝公が庄内に入部して400余年、庄内藩酒井家の存在はシェフが歴史を愛好するきっかけにもなり、風土を料理で表現するのにも大きな原動力となりました。出会って30年近く、若き日のシェフの導き手となった旧庄内藩酒井家18代当主、酒井忠久さん天美さんご夫妻をお迎えしました。
天美 出会ってから30年近く、長いお付き合いになりましたね。奥田さんは庄内人の魅力いっぱいの方で、この人ならおいしいお料理を作るだろうという印象が若いうちからありました。
奥田 見つけていただいてありがとうございます。僕が28歳の時です。お殿様からはアル・ケッチァーノの最初の店舗でお仲間の皆さんと毎月食事会を開いていただいて、「好きなものを作っていいよ」って言って育ててもらいました。この地域には、若い子を育てるとか、次の時代に目を向ける気風があるように思います。酒井家は教育と文化を育んできた歴史がありますよね。致道館、致道博物館、松ヶ岡はその象徴です。
天美 松ヶ岡にこそ庄内藩の気風が生きていて、その歴史を顕彰し継承しようという主人の活動に、私もお手伝いできたことは本当によかったです。松ヶ岡での30年は大切な思い出です。
奥田 ある生産者の方から聞いたんですが、松ヶ岡農業の考え方は指標だと。自分の家だけの種を持つ、自分の家だけの生産方法を確立する、先祖から受け継いだ土を次の世代に残す。それをまっとうできたら農業人として本望だと言っていました。
農政を重んじていた庄内藩は表向きの石高より実際は豊かだったと聞いたことがあります。
忠久 庄内は農の力が豊かで公称の石高には表れない生産力があったでしょうし、税制も当時としては比較的ゆるやかだったようですね。
奥田 庄内藩の領内は、裕福な百姓も見られ、馬も良く肥えていると書かれた地誌がありますが、それくらい暮らしに余裕があったようですね。
忠久 農業技術や農法を研究して普及させた篤農家の存在も大きいですよね。今もそうですが農業者には哲学を持った方が多いように思います。
“庄内人の本来の気風は長い年月が培った自然信仰と、生きとし生きる万物に対する崇拝の念ではないだろうか。三十代の若い奥田政行さんはそんな庄内の心と気風を受け継ぐ庄内人である。” ── 酒井天美
『奇蹟のテーブル』(平成18年刊)寄稿「庄内のこころを受け継ぐ料理人」より

だだちゃ豆に、揚げた赤エビやガサエビ、ボタンエビ、ゆでたカニを一皿にしたこちらは、夏に親戚が集まってザル盛りの豆を食べているイメージ。だだちゃ豆のみそ汁がエビやカニのみそ汁と似た風味があるのは、同じうま味成分が含まれているため。
奥田 飛行機で庄内空港に降りてくる時に上空から眺めると、たくましい大地だなと感じます。
天美 そうですね。庄内は開かれた平野があるし、山も海も川もある。自然が豊かですよね。
奥田 食材は水と塩以外は生き物ですから、自然豊かなので生き物がいっぱいいるということです。庄内でとれる山野草は120種類ぐらい、川の生き物は50種類、海のものは140種類といわれていたのが温暖化もあってか今は200種類くらい。食材のバリエーションは世界一ですよ。それを堂々と言えるように一生懸命調べています。
忠久 甲州ぶどうが残ったのは山梨県と庄内だけですよね。
奥田 「武道が下がる」といわれて武士の時代は木を切られたのに庄内藩は寛容です(笑)。今はぶどうだけで庄内に80種類もあるんですよ。

天美 奥田さんは生産者の方々を盛り立てて、農業と密着した仕事をされてきましたよね。それが素晴らしいと思います。
奥田 生産者さんたちは僕が「庄内を食の都にしたいので手伝ってください」と言った時に応援してくれました。ここぞという時に力になって助けてくれる。これが「沈潜の風」の心意気なんだと思いました。
忠久 「沈潜の風」は、目立たず事を成すといった意味で言われることがありますけど、根っこを大事にすることだと。花が咲くにも根が大事で、私はそういう意味でとらえています。
奥田 よくサステナブルって聞きますけど、持続可能性って何だろうって。それは、助けてって言った時に助けに行って死なせない、そんな相互扶助や信頼関係があることだと思います。庄内にはその気風が根底に流れてる。だからすごくサステナブルだし豊か。この気風は酒井家がつくってきたと思います。
天美 私は東京から嫁いできて、庄内の人の暮らしぶりを見て、暮らしの中に自分の求めるものをちゃんと見出していて、とても豊かだと思いました。食だけみてもこんなに豊かなところはないですよね。その豊かさや価値を、奥田さんが広く知らしめてくださっている。奥田さんを通してわかるというかね。私も気づかせてもらったことがいっぱいあります。
忠久 そうですね。豊かさは自分でつくるものだと思いますね。社会環境とか地理的な条件に恵まれたところは各地にあって、そこで自分自身が豊かになるには、心広く見て、楽しむこと。無意識のうちに与えられていたものに気づけるような、豊かな心持ちでありたいですね。
奥田 はい。お二人とも末永く庄内を見守っていてください。
“天地は活物に候、人も活物に候を、縄で縛りからげたごとく見候は、誠に無用の学問。見聞広く事実に行き渡り候を学問と申す事に候。諸国を遍歴されて古今のことも見渡し、決して理屈をつけず、ひたすら事実のみを読み取る。人を使うには長所を用いて、短所には目をつけない。”
── 庄内藩の教学「徂徠学」~「徂徠先生答問書 上」より



Al ché-cciano
鶴岡市遠賀原稲荷43 TEL/0235-26-0609
営業時間/昼11:30〜13:30(LO) 夜18:00〜20:30(LO)
食の道具と風景 ―致道博物館のコレクションから―

Cradle編集部Cradle Editors
庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。






