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在来作物と旅する④
紫折菜(むらさきおりな)

食・食文化

在来作物と旅する④
紫折菜(むらさきおりな)

2026/04/02

庄内は〝生きた文化財〟といわれる在来作物の宝庫。鶴岡市のカフェ&ギャラリー「manoma」のマツーラユタカさんが、その原風景を訪ねて種を守っている作り手たちのお話を通して作物が受け継がれてきた時間を旅します。地域に伝わる貴重な食材を、新たな視点で料理しながら、おいしい交流を重ねていく連載です。

畑から 種をつなぐ

春を告げる鮮やかな緑と紫

春先の庄内で、いのいちばんに出てくる青菜が紫折菜だ。雪は消えたが、吹きつける風はまだ冷たい3月。日本海にほど近い酒田市の古湊(こみなと)地区の畑を訪ねた。迎えてくれたのは小笠原みねさん。かつてはご主人と二人三脚で畑に立っていたが、ご主人に先立たれた現在は家族に支えられながら、紫折菜の世話を続けている。軽い力で折り取って収穫することから「折菜」と呼ばれるその野菜を、腰をかがめて1本ずつ折り取る作業はなかなかの労働。そこでみねさんの良き相棒となっているのは一升瓶のお酒のケース。腰を支えたり、杖代わりにしたりと、いつも傍にある。鎌も自分仕様にカスタマイズ。かがんで手を伸ばしたときに、茎をまっすぐきれいに切れるよう先を少し曲げてある。慣れた手つきで鎌を茎に軽く当てると、ぽきぽき折れて、腰かごの中に紫折菜が次々と入れられていく。
長年の畑仕事の知恵が息づく、愛しき風景だ。思わず目を細めてしまう。この光景ができるだけ長く続いてほしいと願わずにはいられない。

(左)マツーラ、(右)小笠原みねさん

紫折菜はアブラナ科の葉物野菜で、中国原産の紅菜苔(ホンツァイタイ)の系統。昭和10年頃に中国から日本へ種が伝わり、酒田の地に根付いたとのこと。冬に雪の下でじっと耐えた株は、雪解けとともに茎を立ち上げる。収穫しても次々と脇芽が伸び、一株から20本ほども収穫できるという。酒田では現在、古湊と豊里の2つの地区で紫折菜がつくられている。古湊では葉が緑で茎が紫に、一方、豊里では葉や茎全体が紫色になる。その違いは長年続いてきた自家採種の積み重ねによるものだという。農家が育ちのよい株を選んだり、出荷先の市場で好まれる姿のものを選んだり、そうやって選抜して種を採り、また翌年育てる。その繰り返しの中で土地ごとの個性が少しずつ生まれていく。種が土地に順応し、人の手によって姿を変えていく。在来作物の面白さは、そんなところにもある。

20センチほどに茎が伸びたところで収穫。生育が旺盛で、以前はお父さんと早朝3時に起きて収穫し出荷作業をしていた、とみねさん。
収穫することで茎1本1本が太く育つ

腰をかがめながら黙々と紫折菜を収穫する姿は、この土地の風土をしみじみ感じさせる光景でした。マツーラ

種採り用の株
山形大学農学部の江頭宏昌先生が畑で撮影した小笠原さん夫妻。
みねさんと在りし日の茂雄さん、お2人ともいい笑顔。

食卓から  食べてつなぐ

冬の寒さと砂丘の畑が育む在来作物

紫折菜についてもう少し知りたくて、在来作物研究の第一人者として知られる山形大学農学部の江頭宏昌先生をお招きした。小笠原さんからいただいた紫折菜で料理をつくり、食卓を囲みながらお話を聞かせていただく。

砂丘地農業に力を注いだ吉村源士さん。息子の幸喜さん夫妻が畑を継承。
3月半ばにはここまで成長!
昨年2月初め、豊里の吉村幸喜さんの畑で。雪解けに一気に花茎を伸ばせるように、枯葉を取り除いておく。

まず先生が教えてくれたのは、紫折菜と土地の関係だった。水はけのよい砂丘地の畑。そこに冬の厳しい寒さが加わることで、虫や病気の発生が少ない。そのため無農薬でも育てやすいのだという。さらに日本海沿いにある畑は、対馬暖流の影響で雪解けが早い。山形の内陸部ではまだ深い雪に覆われている頃、酒田の砂丘地では青々とした野菜が収穫でき、春の野菜として県内でいち早く出荷される。まさに土地の自然条件にぴたりと合った作物なのだ。

豊里で紫折菜を栽培している吉村幸喜さんのお宅を江頭先生が訪ねたときのエピソードも印象的で。砂丘地農業にまつわる先代が遺した1冊のノートを見せてもらうと、そこには、全国から種を取り寄せた作物の栽培記録がびっしりと書き込まれていたんだそう。戦後間もない頃、地域農業の発展や、砂丘地の風土に合う作物を見つけ出そうと気概に燃えていたことが想像できるノートだった、と。

雪国の山形で春先に新鮮な野菜を出荷できるのは酒田の砂丘地の大きなメリットだったと思います。江頭

2004年頃から紫折菜を取材している山大農学部の江頭先生と。雪の下で育つ作物は、光合成ができないぶん自ら栄養をつくり、糖に変えて蓄えるため、人が食べると甘く感じるしくみ。

土地に作物を根付かせようとした人がいて、今も守る人たちがいる。僕らにささやかながらできることは、おいしくいただく人を増やすこと。ここで料理家としての出番だ。

紫折菜はクセがなく、雪の下で蓄えた甘さが特徴。山菜に似た粘り気も少しある。今回はまず紫折菜を豚肉と一緒に炒めた一皿を。肉のうま味をまとった紫折菜に、海苔を散らして香りのアクセントに。もう一品は、ゆでた紫折菜に豆腐でつくったバーニャカウダ風のペーストを添えた。江頭先生もにんまりしながら箸を進めてくれる。

厳しい冬があるからこそ、庄内の人にとって春を待つ気持ちはひとしお。紫折菜は食卓に春を連れてきてくれる。

Recipe journal

紫折菜 manomaのレシピ
レシピページは画像をクリックしてご覧ください。


manoma
住所/山形県鶴岡市朝暘町18-8
電話/0235-25-0293
open 金-月曜 11:30-16:00(火曜、水曜、木曜休み 不定休あり)
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マツーラユタカ(manoma/物書き料理家)=取材・料理・文
★取材協力・写真提供=江頭宏昌(山形大学農学部)

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

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