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【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記③
「春がきた」

暮らし・ライフスタイル

【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記③
「春がきた」

2021/03/16

雪が溶けて、明るくなるのが早くなった頃から、子どもたちが6時前に起きだすようになりました。夫の農業も動きだし、家族でゆっくりできる農閑期は今年もあっという間に終わってしまった、と名残惜しいのは私だけのようで、忙しそうに朝早く出かけていきます。

寒いのが苦手な私は、朝布団から出るのが一番遅く、まだまだ靴下を3枚重ねて過ごしていますが、そんな家族の変化から小さな春に気づく今日この頃です。

今年は雪が多かったので、冬のあいだ何度も崩れ落ちているところがないか家じゅう見て回りました。風が強い日に、ドカーン!と大きな音が響いて「屋根が落ちたんじゃないか?!」と駆けつけたこともあったし、屋根の隙間から吹き込んできた雪が廊下に積もっていたこともありました。

幸い屋根が落ちることはありませんでしたが、そうやって見てまわると気になる、家のあちこちの傷みや隙間風。障子やふすまの破れ、窓や戸のガタガタ。

春になって、暖かくなったら直そう。取り掛かるのは雪が溶けてから・・・そんな感覚は、雪が降る土地の人のものなのでしょうか。ずっと先延ばしにしていた仕事に取り掛かる時がきたと知らせるように、冬よりも柔らかくなった風が吹き始め、家の中まで明るい光が射してきて、私はやっと冬眠から目が覚めました。

窓ふき、障子直し、大工さんへ電話・・・やることは山のよう。バタバタとあちこち走り回っていると、久しぶりにご近所さんと顔を合わせました。あったかくなってやっと外に出てこられたと笑い合い、見ないうち子ども大きくなったの、などと何気ないやりとりをするなかで、

「古今さん、がんばてるの。」

その言葉に、いえいえと返しながら驚きました。実はそれまでご近所のだれにも、古今さんと呼んでもらったことがなかったのです。私たちが引っ越してきてお店を開いたことを地域の人はどんなふうに思っているのだろうと心許なかった私は、名前を呼んでもらって初めて、この土地にちょっとだけ受け入れてもらったような気がしました。

鶴岡のまちなかに来て4回目の春。蒔いた種が、静かに、でもたしかに芽を出したと感じるできごとでした。縁もゆかりもない場所で始めた暮らしとお店が、これからここで根を伸ばしていくことに期待で胸を膨らませています。このあたりの人は多くを語らないけど、人もまちも見守ってくれている。そう思うと、私の心にも春がきたように、温かな気持ちになりました。


おやつと居場所 古今 cocon
https://conconcocon.shopinfo.jp

この記事を書いた人

Togashi Aiko

生まれも育ちも庄内。鶴岡市のまちなかの古い町家を直して、2019年より「古今cocon」として職住一体の暮らしを始めました。主人と共に「かしの木農園」の運営と、3人きょうだいの子育てをしています。
 

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