暮らし・ライフスタイル
【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記④「大掃除」
鶴岡に引っ越してから、ずっと先延ばしにしていたことを実行する日がやってきました。
家の使っていない部屋を大掃除するために、朝から何人もの友人やその友人たちが集まってくれたのです。通り土間の奥にある二階や屋根裏部屋は、おもしろいことができないかとずっと考えていたところ。用途が決まったわけではないけれど、掃除しながらなにか思い浮かぶかも・・・というわけで、それぞれ分担して作業を始めました。
ほこりと煤が分厚く積もり、一拭きすると雑巾が真っ黒。障子と襖もびりびりに破けたまま。4年前に引っ越してきたものの手が回らなかった場所の掃除や修繕は、なかなかの手強さです。
でも、意外とみんな楽しそう。作業中おしゃべりの声もはずみます。
子どもたちもこの日を楽しみにしていて、お兄さんお姉さんと遊ぶのを心待ちにしていました。きゃあきゃあと座敷を走り回ったり、額を寄せ合って人形遊びしたり。げらげら笑って思いっきり遊んでいました(元気過ぎる子どもの相手は大変だったことでしょう!)。
私は、みんなのお昼ごはんの準備をすることに。末っ子をおんぶして台所に立つと聞こえてくる、どしどし、がたがたという足音。相談する声や笑い声。家でこんなに誰かの気配がすることって今まであったかしらと、なんだか、心もざわざわ、わくわくしてきます。
包丁のとんとんというリズムで背中の子がうとうとしはじめ、あっちこっちでする物音を聞きながら、大家族のお母さんになった気分でごはんを作りました。
お昼になって集合。おとなもこどもも入り交じって座り、みんなで食べるごはんの楽しさとおいしさといったら! お金や手間がかかった料理ではないけれど、午前いっぱい作業を頑張ってもらったおかげで、気づけばどのお皿も炊飯器も気持ちいいくらいすっからかんです。
どこからか「久しぶりに野菜食べたー」なんて聞こえて笑っていたら、側にいた学生さんが「楽しかったからまた来たい」と言ってくれました。人の家を掃除して楽しかったとは! でも不思議とお世辞には聞こえませんでした。お皿を全部洗ってくれた後、「ありがとうございました」と言って去っていく彼らの背中はとても頼もしく思えました。ありがとうは、こちらのせりふなのに。
部屋のおもしろい使い道が思い浮かぶかも・・・なんて思って始まった大掃除でしたが、その日なにかが決まったわけではありません。
ただ、みんなで集まって、一緒に掃除して、一緒にごはんを食べた、特別なことをしたわけでもない一日。みんなが貼ってくれた障子をながめていて気付きました。
「なにかおもしろいことって、これだったんだなぁ。」
おやつと居場所 古今 cocon
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富樫あい子Togashi Aiko
生まれも育ちも庄内。鶴岡市のまちなかの古い町家を直して、2019年より「古今cocon」として職住一体の暮らしを始めました。主人と共に「かしの木農園」の運営と、3人きょうだいの子育てをしています。