暮らし・ライフスタイル
【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記⑤
「直しながら暮らす」
ばらばらばらっと音がして、あられが降ってきたなと外に目をやりながらも、なるべく動かずストーブのそばで過ごす、猫のような生活。夫が農閑期の間だけの、つかの間の贅沢です。今年もきちんと雪が降ったので、車や仕事やいろんなものがストップしました。地元生まれなのに雪道の運転がどうにも苦手な私は、雪を口実に冬ごもりして、家の中のこまごまとした仕事に精を出しています。
時間があるときやろうととっておいた、子どもの破れたズボンや穴の空いた靴下、虫食いのセーター、欠けたお皿。気に入らない色の天井と色あせた襖や壁も、いよいよ手を入れる時が来ました。ひとつずつに向き合って、こうしたらうまくいくかなぁと思いめぐらし、刺繍や金継ぎをしたり、襖紙を貼ったりペンキを塗ったり。生活の道具も家も、こうして直せばまだまだ使えるようになって、ますます愛着がわきます。
時間があるときやろうととっておいた、子どもの破れたズボンや穴の空いた靴下、虫食いのセーター、「直せばまだ使える!」は、小学生時代からの私の得意わざで、母について行ってフリーマーケットで掘り出し物の洋服を見つけてはお小遣いで買って、自分で直して使っていました。でもあまり上手ではなくて、私が直したバッグを得意げに祖母に見せると、ダメ出しをくらってその場で直されたことも(笑)。
のちに家まで直すようになると当時思うはずもないのですが・・・。自分で作ったり直したりするのが大好きでした。今も、身の回りのいろんなものを夢中になって直しているとき、心の中は小学生のあの頃と変わらないワクワクした気持ちでいっぱいになっています。
築約150年といわれるこの建物には、現代の住宅には非効率で取り入れられないであろう自然の建材や、電気に頼れない時代に工夫された、風や光を取り込む造りがあります。こんなにおもしろい家を、時代に合わない、使いにくいと壊してしまうのはもったいない、「直せばまだ使える!」と、あちこち手を入れたくなってしまいます。古い家を直しながら暮らしていると、大人になって失くしてしまった創造性を取り戻しているような気がします。
「直すのは手間がかかる、新しく買ったほうが安い・早い」とはよく聞く言葉です。スピードや効率や経済性が求められるいま、生活は便利になったけど、私たちの心は満たされているでしょうか。こんな時代だからこそ、ゆっくりでなければ通り過ぎてしまう、本当に大切なことがあるように感じています。
おやつと居場所 古今 cocon
https://conconcocon.shopinfo.jp
富樫あい子Togashi Aiko
生まれも育ちも庄内。鶴岡市のまちなかの古い町家を直して、2019年より「古今cocon」として職住一体の暮らしを始めました。主人と共に「かしの木農園」の運営と、3人きょうだいの子育てをしています。