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【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記①
「古くて変な家」

暮らし・ライフスタイル

【連載】古い町家の、暮らし時々おやつ日記①
「古くて変な家」

2020/07/07

鶴岡のまちなかに家を探し始め、この家を見せてもらった。
今まで見たことのない、変な造りの家だなあと思った。

ぼろぼろの改装前の外観

私たちが引っ越してきたのは2年前。鶴岡市の昔ながらの商店街の中に、うっかり通り過ぎてしまうほどにひっそりと、その家は建っていた。それまで約3年間人が住んでいなかった家は、灯が消えたような、廃墟のような空気を漂わせていて、本当に住めるだろうかと不安になったものだ。


しかし、我が家の子どもたちによってその不安はすぐに吹き飛んだ。3間繋がった広い座敷をキャーキャーと楽しそうに走り回ったのだ。トトロの、サツキとメイみたいに。押し入れや衣装タンスでかくれんぼを始め、むかしふうの急な階段からジャンプし、通り土間を自転車で駆け抜け、不思議な造りの奥二階を忍者屋敷と呼んで喜んだ。我が家のわんぱくな子どもたちには築約150年という古さなど関係なく、この「変な家」は絶好の遊び場になった。

奥二階の階段と水平に開く扉

長らく地域で営まれた醤油屋さんだったこの家は、隣近所と比べて背が低く、店の二階の天井は頭がつきそうなほど低かった。入口から一歩入れば、通り土間が裏の通りまで続いている。間口に対して奥行きのとても長い建物なのだ。これは町家造りといわれる(私は恥ずかしながら、町家は京都にしかないと思っていた)伝統的な建築様式だと後から商店街の人に教えてもらった。この地域の建物は皆そうだったのだが、現在残っているのはうちを含めて数件ということらしい。古さのゆえに直した跡や増築と思われる箇所もあり、建材の年代がバラバラのパッチワーク状態で、前の持ち主の方も直しながら暮らしてきたのだと想像した。

醤油屋時代の暖簾と通り土間の入り口

今後も改修が必要な箇所が出てくるだろう。古い建物が壊されるのを見かける度に、何か利用の手立てはなかったものかと惜しんでいた私も、度重なる修繕に毎回費用をかけるならいっそ壊して駐車場にでも・・・という気持ちは今ではよくわかるようになった。

引っ越してきたばかりの時の座敷

しかし、子どもたちと同じくこの「変な家」に魅力を感じてしまった私は、「ここに暮らしたらどんな生活が待っているのだろう」という気持ちを抑えきれなくなっていた。そして主人と子どもたちの家族4人で移り住むことを決めた。

改装後の外観

私は期待していた。ここで自分が望む生き方を実現できるんじゃないかと思ったのだ。それまで探していた、暮らしと仕事が近くでつながっている「職住一体」の拠点と、昔ながらの商店街の古い町家が、私の頭の中で重なった。改修工事の後、「変な家」はカフェと花のアトリエ、レンタルスペースとなって動き出した。


おやつと居場所 古今 cocon
https://conconcocon.shopinfo.jp

この記事を書いた人

Togashi Aiko

生まれも育ちも庄内。鶴岡市のまちなかの古い町家を直して、2019年より「古今cocon」として職住一体の暮らしを始めました。主人と共に「かしの木農園」の運営と、3人きょうだいの子育てをしています。
 

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