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在来作物と旅する⑤
越沢(こえさわ)三角そば

食・食文化

在来作物と旅する⑤
越沢(こえさわ)三角そば

2026/10/09

生産地:鶴岡市越沢
生産者:越沢三角そば生産組合で採種、栽培。2020年に「越沢三角そば」として商標登録。
特徴:ナッツを感じさせる風味と濃い味わい、ほのかな甘みが特徴。まやのやかたではつなぎに自然薯を使うことでさらに風味を引き立たせている。
栽培・収穫時期:草丈が高く、実は小ぶりだが製粉したときの歩留まりが高い。播種は7月下旬~8月上旬にかけて行い、約70日で収穫。例年10月下旬にまやのやかたで新そばまつりを開催(今年は10月31日、11月1日)。

畑から 種をつなぐ

何気ないひとことが 地域の宝に

「いいがぁ、村の人との何気ない会話のながで、普段とは違う言葉で作物を呼んだらあやしいど思えよ。未確認の在来作物の可能性があっがら」

冒頭の言葉は、筆者の営む店でも好評の「しなの花ティー」を手がける羽越のデザイン企業組合の冨樫シゲトモさんに、カメラマンの東海林晴哉さんがかけた言葉だ。2016年当時、温海地域の山あいにある越沢集落のそば打ち体験事業に関わっていた冨樫さんは、当時の自治会長・野尻善共さんとの何気ない会話で「サンカクソバ」という耳慣れない言葉に出会う。むむ! 冨樫さんのアンテナが発動した瞬間だ。この地域でよく栽培されている一般的な品種とは別に、昔から越沢で育てられてきたそばがあるという。東海林さんに連絡すると急展開。翌日には在来作物を研究する山形大学の江頭宏昌先生らが現地調査に訪れ、めでたく在来作物に認定された。

そこから先のストーリーを教えてくれたのは、越沢自治会の要職を歴任し、現在はそば処「まやのやかた」の館長を務める大滝由吉さん。越沢はそばを大切にしてきた集落だ。12月12日の「山の神のお歳夜」には、山菜などと今年採れたそばを神前に捧げる。昔から来客や祭となれば自宅でそばを打つ。打ち方もこだわりも家ごとにそれぞれ。由吉さんも子どもの頃から父親のそばづくりを手伝ってきたという。かつては集落のあちこちで自家用に育てられていた三角そばだが、在来作物に認定された当時、種をつないでいたのはわずか数軒だった。認定をきっかけに、越沢では自分たちの足元を見つめ直していく。

『鶴岡西田川神社誌』を紐解くと、越沢の祖先が長野から移り住んだ開拓民だと判明。信州もそばどころ。三角そばも開拓民が持ち込んだのではないか。長野の信濃町にも訪ねて行き、そばを中心にした交流も生まれた。ひと粒のそばの種をたどった先に、自分たちの集落のルーツまで浮かび上がってきたのだ。

越沢三角そばの畑で、大滝由吉さん、菅井奈緒さんと。
摩耶山麓に広がる越沢集落。今年の9月初めはそばの白い花が一面に咲いていた。山間の棚田の一部も転作され、そば畑として利用されている。

地域の自然の財産とその価値に若い世代が 気づいてくれたことは
集落の大きな力になると思っています。
―大滝

つなぎは地元産の自然薯
越沢三角そばは「そば処まやのやかた」で提供。/鶴岡市越沢蛇喰111-1/0235-47-2430   
営業時間:土日祝日 11:00~14:00(冬季休業12月中旬~3月中旬)
まやのやかたでは現在、大滝さんと菅井さんを含む4名でそば打ちを担当。

食卓から  食べてつなぐ

そばがつなぐ 越沢の人と未来

その名の通り、実が三角形に見える越沢三角そばは、一般的な品種よりも小ぶりだが歩留まりもよく、挽いた粉からはナッツのような芳しい香り。東京の有名店も仕入れているとのこと。

三角そばを地域の宝に! 集落の人たちの意識も変わり、生産組合を立ち上げた。当初数名だった組合員は現在約20人に。他品種のそばを栽培していた農家に働きかけ、集落で栽培するそばをすべて三角そばに切り替え、摩耶山の麓に広がるそば畑は約17町歩にまで広がっている。育てられた三角そばを生産組合が固定価格で全量買い取り。生産から製粉、そば打ち、まやのやかたでの提供、そば粉を使った商品開発まで、地域内で循環する取り組みが評価され、内閣総理大臣賞を2023年に受賞した。そんな越沢集落で最近話題となっている人物……「スーパーレディが、彗星のごとく現れたんだ」。

由吉さんが笑って紹介してくれたのが、菅井奈緒さん。越沢で生まれ育ち、鶴岡の結婚式場で働いていた奈緒さんの転機はコロナ禍。仕事が途絶え、将来を見つめ直していた時、越沢の新そばまつりを手伝った。世の中が止まったような時期。そこではみんなワイワイと働き、お客さんが笑顔でそばを囲んでいた。「これが私が生まれ育ったところなんだな。ここをなくしちゃいけないと思ったんです」。その後農業を学び新規就農。三角そばを育て、山菜を採り、あつみかぶの焼畑にも挑戦。まやのやかたではそば打ちの腕も磨く。「ここで生まれ育ったけど、知らないことの方が多いんです」。畑や山のこと、郷土食のこと。農業を始めたからこそ触れられる知恵や文化を、集落の人たちから教わる日々。由吉さんも奈緒さんの挑戦をやさしく見守る。

何気ない会話から価値を見い出された三角そば。奈緒さんのような若い世代も、そばをきっかけに生まれ育った土地を知り直している。越沢の物語、その先がますます楽しみである。

歴史上、文献にも残る越沢のそば文化。
地元の人には当たり前のものが 何気ない一言から地域の宝になって
文化がまた紡がれていくんですね。―マツーラ

焼きなすをすり鉢でつぶすときは、完全なペーストにしすぎず、少し食感が残るくらいで。
越沢三角そばの乾麺はまやのやかたで販売。
小さめのスキレットなどを使うと、生地が広がりすぎずに、形が決まりやすいです。
熱したフライパンを一度濡れふきんの上に置くことで、熱したフライパンの温度を下げつつ、表面温度を均一に整えることができて、焼き色がきれいな仕上がりに。

Recipe journal

越沢三角そば manomaのレシピ
レシピページは画像をクリックしてご覧ください。


manoma
住所/山形県鶴岡市朝暘町18-8
電話/0235-25-0293
open 金-月曜 11:30-16:00(火曜、水曜、木曜休み 不定休あり)
Instagram


マツーラユタカ(manoma/物書き料理家)=取材・料理・文
〈参考資料〉越沢自治会・越沢自治会活性化委員会「越沢活性化ビジョン 棚田と清水、摩耶の里・こえさわ」(2017年)、荘内松柏会 機関紙「松柏」(2017年9月15日付)江頭宏昌「ソバの最新情報」、平成29年度「鶴岡市在来作物調査研究事業」報告書(2018年)、越沢自治会(資料提供:NPO法人 自然体験温海コーディネット)「越沢三角 そばと暮らし」(2020年)、越沢三角そば生産組合「在来作物・越沢三角そば 振興の取組」(2026年)

この記事を書いた人

Cradle Editors

庄内の魅力を発信する、出羽庄内地域文化情報誌「Cradle(クレードル)」を隔月で発行。庄内に暮らし、庄内を愛してやまないメンバーたちの編集チームです。

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